介護“する側・される側”の負担を軽減。ニーズは高まる一方の「在宅介護食」

7年後の2025年には、65歳以上の人口が全体の3割に達し、団塊世代の全てが75歳以上となる超高齢化社会を迎える日本。医療費・介護費の圧縮などを目的に、一層、在宅介護への移行が推進されてきている、いま。老老介護や独居高齢者の増加に伴う切実な課題は、在宅介護で最も大きな割合を占めるといわれる“食事”の問題です。

介護食は手作りが理想です。しかし、毎日3食用意するのは大変です。食べやすく調理法を工夫したり、形態や栄養面の調整をしたりといった特別な手間と気配りが求められます。さらに、厚労省の調べでは、在宅介護を受ける高齢者の6割以上が低栄養状態の傾向があるといいます。
そこでいま、年々、需要を伸ばしているのが、在宅向けの介護食です。介護する側には、調理に費やす肉体的負担の軽減。される側には、食欲減退になりがちな食事への精神的負担の軽減。双方にとってのメリットが、市場をじわじわと拡大させています。「日本介護食品協議会」では、介護食品全般を「ユニバーサルデザインフード(UDF)」という名称に統一し、硬さや粘度の程度によって、“容易に噛める”“歯ぐきでつぶせる”“舌でつぶせる”“噛まなくてよい”の4つに分類。市販の介護食のパッケージには、UDFマークと4区分の明記が義務付けられています。

高齢者の“食べる喜び”を基本に、早くから介護食の開発に取り組んでいるのが[キューピー]。今春、「やさしい献立」シリーズ(55種類)に、「やわらかおじや 牛丼風」「やわらかおかず かつ煮味」「とろけるデザート みかんゼリー」などが加わりました。
[アサヒグループ食品]は今春、介護食分野に、この3年間で110億円の大型投資をすると発表。昨年立ち上げたブランド「バランス献立」シリーズの売り上げを、2020年までに17年比3.5倍規模に育てると打ち出しました。
[マルハニチロ]の「もっとエネルギー」シリーズは、機能性を売りに他社との差別化を図ります。従来品の1.5倍のエネルギー量を目安に中鎖脂肪酸油を配合。「肉じゃが」「パワーライス」「ちゃんぽん」など多彩なメニューがラインアップ。
ストローで飲むユニークな介護食として人気の高いのが、[明治]の「メイバランス」シリーズ。少量でもバランスよく栄養素が摂取できる手軽さがうけています。

拡大が確実視されている介護食市場。食品メーカーや外食チェーンなど、様々なプレーヤーが参入してシェア争奪戦が繰り広げられていますが、そこには、高齢者の健康の維持に加え、食事の楽しみの提供というメンタルな部分も併せ持つ社会的意義の大きい市場であることを忘れてはいけません。与えるだけの“食べ物”ではなく、美味しそうで食べたいと思ってもらえる“食事”こそが、真の“介護食”なのですから。

※参考:

厚生労働省          http://www.mhlw.go.jp/
日本介護食品協議会      http://www.udf.jp/
キューピー          https://www.kewpie.co.jp/
アサヒグループ食品      http://www.asahi-gf.co.jp/
マルハニチロ         http://www.medicare.maruha-nichiro.co.jp/
明治             http://www.meiji.co.jp/
日経産業新聞(2017年11月6日付)
日本経済新聞(2018年2月22日付)