原酒不足を商機に。ウイスキーの新顔、続々と台頭

昨年、[サントリー]の「白州12年」「響17年」が。そして今年に入って、[キリン]の「富士山麓 樽熟原酒50度」や[サントリー]の「白角」「知多」など、高級国産ウイスキーの販売休止のニュースが駆け巡りました。
消費量が落ち込み続けていたウイスキーの国内市場は、2010年頃から徐々に回復。2017年には、ここ数十年で最低だった2008年の2倍以上まで持ち直しました。さらに、海外で“ジャパニーズ・ウイスキー”の評価が高まり、輸出が急増。国内の需要をまかなうことすら難しくなってきたことに加え、[サントリー]角瓶の販売戦略が沸き起こしたハイボールブームによる驚異的需要増。この2つが重なって、メーカーも想定外の原酒不足という事態を招いてしまったのです。

ウイスキーの原酒は、熟成に時間がかかるため、人気に火がついたからといって、すぐには増産できるものではありません。何年も先の需要を見込んで計画生産されるため、今般のように、数年前の低迷期の需要予測に基づいて生産された原酒の量では、まかないきれないのは無理からぬこと。メーカーは、限りある原酒をどの商品に割り当て、どの商品を販売休止させるかという、苦渋の決断を迫られたのです。

そんな、大手の“非常事態”のすき間を縫うように、二つの大きな波が押し寄せています。その一つが、最近、存在感を増している「地ウイスキー(クラフトウイスキー)」。地方の小規模な蒸留所でつくられる少量生産のウイスキーです。
埼玉の秩父蒸留所、富山の三郎丸蒸留所、福島の安積蒸留所といった古参をはじめ、新興勢力も続々と台頭。[サントリー]と[ニッカ]の2社だけで9割近いシェアを占めている国内のウイスキー市場の中で、シェアの数値だけでは計れない個性を発揮して新しいトレンドとなりつつあります。

もう一つのウエーブは、“ウイスキーの産地=冷涼な地域”という常識を覆す、暑い国からの攻勢です。
台湾産シングルモルト「カバラン」(税別4500円~)は、スコットランドの3~4倍の早さで熟成するという“早熟ウイスキー”。世界的コンペティションで最優秀シングルモルトを2年連続で受賞するほどの実力の持ち主です。
[国分グループ]が輸入しているのは、知る人ぞ知るウイスキー大国、インド産のシングルモルト「ポール・ジョン」(税別6000円~)。こちらも、国産ウイスキー不足を補って余りあるほどの実力派。世界24カ国で発売されており、2017年に日本初上陸。

国内大手メーカーでは現在、原酒不足改善に向け、貯蔵庫の増設や蒸留所の生産能力増強などへ巨額を投じて対策を急いでいますが、このまま順調に市場拡大し続けることを前提とした大型投資。はたして、原酒が樽の中で眠っている数年の間に、市場が様変わりしていないことを祈るばかりです。

参考:

ウイスキー文化研究所         https://scotchclub.org/
サントリーホールディングス      https://www.suntory.co.jp/
キリン                https://www.kirin.co.jp/
ニッカウイスキー           https://www.nikka.com/
カバラン               https://www.kavalan.jp/
国分グループ             https://www.kokubu.co.jp/
日本経済新聞電子版(2019年1月21日付/同2月7日付/同3月28日付)
朝日新聞(2019年1月8日付)
日経МJ(2019年4月8日付)