懐かしさ一新。いま風に盛り上がる、「スタイリッシュ銭湯」。

 “番台”から“フロント”へ、富士山のペンキ絵からモダンアートへ—-。昔ながらの庶民的情緒あふれる銭湯が様変わりしようとしています。レトロなイメージを一新し、オシャレに改装した“銭湯っぽくない銭湯”が続々と出現。「スタイリッシュ銭湯」「デザイナーズ銭湯」などと呼ばれ、これまで銭湯に馴染みの薄かった若い世代の注目を集めています。

 東京中央区・八丁堀のオフィス街、7階建てビルの1階部分、洒落たバーのような入口が「湊湯」です。暖簾をくぐると、水泡をLEDで照らした幻想的な光の回廊が迎えてくれ、2つの浴室にはジャズが流れています。

 2015年春にリニューアルした「天然温泉 久松湯」(東京練馬区・桜台)の“目玉”は、光の演出。浴室のタテ4m、ヨコ10mほどの白い壁面のスクリーンに映し出されるプロジェクションマッピングです。約20分間にわたって3パターンの幻想的な作品が投影され、お湯に入ってリラックスしながら非日常へとトリップさせてくれます。この効果か、一日の利用客数は改装前の3倍以上の盛況ぶり。

 都会では珍しい露天風呂が特徴の「光明泉」(東京目黒区・中目黒)。4階建ての3階テラスにある露天から見上げる夜空は、20~30代女性に人気。営業時間が25時までということもあって、ランニングやジム帰りに汗を流す“銭湯ラン”も盛んとか。

 「ふくの湯」(東京文京区・千駄木)は、さながら老舗の温泉宿の趣き。浴室へのドアを開けて真っ先に目に飛び込んでくるのは、現代風に描かれた赤富士です。

 東京・青山で100年以上の歴史を持つ「南青山・清水湯」は、2014年、全面改装して白亜のタイル張りのビルに生まれ変わりました(上階部分はマンション)。男湯はイタリア製、女湯はスペイン製と浴場のタイルを使い分け、シャワーには高級ホテルで使われているドイツ・グローエ社製を採用。ジャズをBGMに、ベルギービールも楽しめるという、「銭湯」とは思えない贅沢さ。

 2014年度の全国の公衆浴場数は2,801軒と、対2000年比、約6割減と、廃業の波は広がるばかりです(「全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会」調べ)。そんな厳しい状況のなか、「スタイリッシュ銭湯」が長年の利用客であるシニア層を大事にしながら、新規顧客層を取り込んでかつてのにぎわいを取り戻す起爆剤となるか—今後の“仕掛け”に期待が集まります。

※参考:
湊湯            http://www.minatoyu.jp/
天然温泉 久松湯    http://hisamatsuyu.jp/
光明泉           http://kohmeisen.com/
ふくの湯          http://www.sentou-bunkyo.com/
南青山・清水湯     http://shimizuyu.jp/
日経МJ(2015年8月14日付)