“不足”のはずが“過剰”に。ホテル開業ラッシュに立ち込める、暗雲?

訪日外国人(インバウンド)は昨年、約2800万人に達し、政府は東京五輪の20年には4000万人規模の拡大を予想しています。2年ほど前、押し寄せるインバウンドの宿泊需要にホテルが追い付かない、五輪開催時には“宿泊難民”が現れる—-そんな危機感に襲われたホテル業界が、一斉に新設・改装に動きだしました。
国内の大手ホテルチェーンをはじめ、外資系の日本進出や不動産・デベロッパー、鉄道などが相次いで参画。特に、野村、三井、三菱、東急といった不動産大手はインバウンドの取り込みを狙い、こぞってホテル事業を強化。
さらに、異業種からの参入も多く見られます。カジュアル衣料大手の[ストライプインターナショナル](岡山)は、和をテーマにしたインテリアの店舗併設型ホテルを東京・渋谷にオープン。同様に、婚礼大手の[テイクアンドギヴ・ニーズ]も渋谷に、キャンプ用品の[スノーピーク]が横須賀に、それぞれ宿泊施設を開業。[良品計画]も来春を目途に銀座にホテルを開く予定です。
ビジネスホテル組も負けてはいません。[アパグループ]は、20年までに47の新設を計画、[東横イン]は25、[共立メンテナンス](ホテル「ドーミーイン」)は31の新設をそれぞれ目指します。

そんな開業努力の成果もあってか、2020年には主要都市のホテル客室数が16年比で3割近くも増えるとの見通しが立ちました。ところがここにきて、当初のホテル不足の懸念が一転。客室不足は起きないとの試算が発表され、いまや“供給過剰”とさえ囁かれているのが現状です。加えて、このホテル余り現象に追い討ちをかけるのが、民泊や高級カプセルホテル、クルーズ船(船内泊)といったライバル陣の増加です。特に民泊は、6月に施行された「住宅宿泊事業法」(民泊新法)によってルールが明確になり、さらに市場の拡大に弾みがつくことが予想されます。コンビニ各社をはじめ、[楽天][JTB][京王電鉄][パナソニック][リクルート]なども早々に民泊事業に進出。

客室の確保を巡って、“不足不安”から一転“余剰不安”へ。客の取り合いはもちろん、不足するホテルスタッフの奪い合いが激しくなることは容易に想像されると同時に、市場的には、供給過剰に伴う価格競争の激化が最も注目されることになりそうです。

※参考:

ストライプインターナショナル    http://www.stripe-intl.com/
テイクアンドギヴ・ニーズ      https://www.tgn.co.jp/
スノーピーク            https://www.snowpeak.co.jp/
良品計画              https://ryohin-keikaku.jp/
アパグループ            https://www.apa.co.jp/
東横イン              http://www.toyoko-inn.co.jp/
共立メンテナンス          https://www.kyoritsugroup.co.jp/
朝日新聞(2018年2月3日付/同5月22日付)
日経МJ(2018年4月6日付)