新たな観光資源に育つか。インフラ構造物を鑑賞する、「土木観光」がブームに。

10年ほど前、“工場萌え”という言葉をよく耳にしました。コンビナートや工場の夜間照明、煙突・配管・タンク群の人工的構造美を愛でる人たちの趣向を指す言葉で、写真集の出版や見学ツアーなど、デジカメの普及やネットの力もあって、工場や廃墟鑑賞の“大人の社会見学”はどんどん拡大していきました。
そういった現象と並行し、観光業界を中心に“ニューツーリズム”という波が沸き起こりました。物見遊山的な従来の観光旅行に対し、テーマ性が強く、体験・交流型の要素を取り入れた新しいタイプの旅行を指しています。環境がテーマの“エコツーリズム”、農村に滞在して体験する“グリーンツーリズム”など。いずれも、決して万人受けするものではないだけに、興味のある一定層には強くアピールするのが特徴です。

そして、いま。工場に端を発した巨大人工構造物を愛でる観光スタイルは、その対象物の範囲を広げ、ダム、堤防、放水路、水門、運河、発電所、橋、トンネル、港湾、道路などを訪れて鑑賞する「土木観光(インフラツーリズム)」という形となって注目を集めるようになりました。
「土木観光」は、大きく次のようなタイプに分けられます。
1.スケールや形、機能が優れた土木構造物を鑑賞する。
2.施工中の土木構造物の建設工事現場を見学する。
3.歴史的な土木構造物(土木遺産)を鑑賞する。

昨年5月に国交省は、橋やダムなどのインフラ拠点を観光資源化する取り組みの一環としてインフラツーリズムを積極的に活用、促進していこうと「インフラツーリズム ポータルサイト」を開設。無料の見学、有料の旅行会社企画ツアーを含め、全269件(開設時点)のインフラツアー情報を紹介しています。

土木構造物への“美しさの感動”は、それ自体の造形美だけにとどまらず、その地域の風景や生活、文化、歴史などという、その構造物が作り出されるに至った時代背景の“物語”の中にこそ潜んでいるものです。

ビジネスとして確立させるにはまず、これまでのような一部のマニアのためだけの観光資源という狭い枠からの脱却が必須となります。その地域が、誘客を前提に飲食や物販、体験プログラム、ガイドの配置といった、消費に結びつける観光コンテンツを整備して経済効果を狙うのか、あるいは単に“見せるだけ”のメモリアル的物件として保存に重きを置くのか。目的を明確にした取り組みが求められます。
それにしても、技術者や専門家だけの特殊な分野と思われていた土木の世界に、素人である一般観光客がこれほど興味・関心を寄せるとは——こんなところにも、NHKのタモリさんの“あの番組”の影響が?

※参考:

国土交通省(総合政策局)     http://www.mlit.go.jp/
JTB総合研究所         http://www.tourism.jp/
日経産業新聞(2016年10月20日付)