貧困の予兆? 低かったはずの「エンゲル係数」が、じわり上昇中。

家計の支出のうち食費の割合を示すのが「エンゲル係数」。暮らしぶりを表す経済的指標として、係数が低いほど豊かで、高いほどゆとりがないとされています。
日本でも、終戦直後は60%(2人以上世帯)を超える高さでしたが、その後は経済成長に伴って“順調に”下がり続けてきました。ところが、2005年を境に上昇傾向に転換。2010年頃から急激なV字を描き、ことに2014年から3年間の急伸ぶりは際立ち、2016年には25%の一線を超えて25.8%と、1987年以来、29年ぶりの高い数値を示すに至りました。(総務省統計局「2016家計調査」)
では、なぜ今、エンゲル係数は上昇しているのでしょうか。
最大の要因は、所得の伸びが追いつかないほどの食品価格の上昇です。2016年の1世帯1カ月の支出は28万2188円。10年前(2006年)の29万4943円より減少していますが、食費としては約4800円増えていることから、食品の値上がりがエンゲル係数を押し上げる要因になっていることがわかります。(総務省「家計調査」)
さらに、ライフスタイルの変化も大きく関与しています。共働き世帯がこの10年で10%余りも増え、働く女性の増加が食費への支出増につながっています。特に弁当や総菜といった調理食品は、「時間がなくて、ついお世話に」「割高だけど、時間を買うと思って…」と利用頻度は高まる一方。実際、調理食品への支出は、2006年の8202円から2016年には9494円と約15%も増えています。(総務省「労働力調査」「家計調査」)
加えて、少量でも単価が高く、手間のかからない食品を求める傾向が強い高齢夫婦・無職世帯が、総菜などへの支出を増やしていることも係数上昇の一因となっています。

今は、様々な要因が絡み合ってエンゲル係数が形成されており、一つの理由だけで上昇と貧困とを関連づけるには無理のある時代となっています。例えば、食以外の支出を切り詰めざるをえない人たちが、せめて“食”でささやかな贅沢を楽しみたいと、外食を一種のレジャーと捉えて積極的に支出する人たちが増えています。また、健康に気をつかって食事最優先でお金をかける人も少なくありません。
家計の中で食費が増え続けている日本—-しかしそれは、もう食以外のモノを欲しいとは強く思わなくなったという価値観が浸透してきた表れという見方もできます。
エンゲル係数上昇の背景をひもといていけば、そこには今の日本の経済状況、ひいては今後の消費回復につながるヒントが隠されているのかもしれません。

※参考:

総務省              http://www.soumu.go.jp/
朝日新聞(2017年3月30日付)
日経MJ(2017年4月28日付)