クオリティーは熟成しても、甘くはない「日本製ワイン」の台所事情。

「国産ワイン」と「日本ワイン」の違いがおわかりでしょうか。「国産ワイン」とは、輸入濃縮ブドウ果汁にアルコールや水を添加して日本国内で製造したワインのこと。

国内で販売されている日本製ワインの約9割弱がこのタイプです。一方、日本で栽培されたブドウだけを使って醸造された純国産ものが、「日本ワイン」と呼ばれています。

近年、ワイン愛好家を中心に注目され、世界的なコンクールで入賞するなど国際的な評価が高まっているのがこのタイプです。しかし、毎年消費量が伸び続けているにもかかわらず、ワイン全体の国内消費量に占めるシェアはまだひとケタ台にすぎません。その理由は、肝心のブドウの供給不足にあります。農家の高齢化、後継者不足などの原因からワイン用ブドウ生産者の減少、それに伴う栽培面積の縮小(10年間で3分の1)に歯止めがかかりません。

人気の「日本ワイン」の生産比率を増やそうとする大手ワイナリー各社は、国産ブドウの安定調達を目的に自社畑の拡大に向けて動きます。

[メルシャン]は、甲州(山梨)、上田(長野)、塩尻(長野)などの自社管理畑を2027年までに60haに拡張予定。[サントリー]は、自社畑「登美の丘ワイナリー」(山梨)の甲州種の栽培面積を3~4年で約4倍に増やすほか、耕作放棄地の開拓を積極的に推し進める計画。[サッポロ]は、勝沼ワイナリー(山梨)の拡張を計画中。

不思議なことに日本では、ワインの表示に関する法制度が存在しておらず、国際的に“ワイン後進国”と見なされてきました。欧米の“ワイン法”に相当する、詳細で厳格な原料産地やブドウ品種等の表示制度の整備が待たれていたところ、2015年、国税庁は国産のワイン表示に関する新たなルールを策定しました(施行は2018年から)。

例えば仮に「長野ワイン」など、ラベルで地名を名乗るには、その地で収穫したブドウを85%以上使用し、その地で醸造したものでなければそこの地名入りのワインを名乗れず、「日本ワイン」と認定されないことが明文化されました。

日本が世界的なワインの産地と認められるには、現在の10倍以上のブドウ生産量が必要だ、と提言するのは大手ワイナリーの担当者。国際競争力のあるブランドを目指す意味でも、新たなワインの表示ルールが、ブドウ不足解消の足カセにならぬことを祈るばかりです。

※参考:
日本ワイナリー協会         http://www.winery.or.jp/
メルシャン(キリン)         http://www.kirin.co.jp/
サントリーワインインターナショナル http://www.suntory.co.jp/
サッポロビール           http://www.sapporobeer.jp/

日経産業新聞(2016年6月7日付/同7月29日付)
日経МJ(2016年7月27日付)