下積みはムダ? 勘よりマニュアル重視の、「インスタント職人」増殖中。
長年の修業があってこそ一人前という職人の世界に、いま“革命”が起きつつあります。超短期間で育て上げる、「インスタント職人」のシステムが注目を集めています。“飯炊き3年、握り8年”といわれ、地道な下積み修業が必須とされる寿司職人。この通説をいともあっさりと覆したのが、2014年、大阪で開校した「飲食人大学」(運営[RETOWN HUMAN])です。なんと、3カ月という短期集中カリキュラムで一人前の寿司職人を生み出すというもの。特徴は、現場実践主義で、徹底した実技反復練習。魚をさばく時の包丁の角度や時間経過による味の変化などを、“感覚”ではなく、具体的な数値で論理的に教え込みます。“技術を盗む”ことに費やす労力と時間は無駄であるという考え方が基本。週6日、9時から16時までのコースで60万円。現在は、東京と名古屋でも開設し、卒業生は約300人。そのほとんどが、包丁すらまともに握ったことがなかった人たちです。大阪・梅田には、卒業生のみで切り盛りする寿司店があり、開店からわずか11カ月で「ミシュランガイド」に掲載されるという、堂々の実績を証明しています。1週間でラーメン職人に育て上げて開業まで導くのは、香川県の「大和(やまと)ラーメン学校」(運営[大和製作所])。曖昧な“勘”を一切排除し、まるで理科実験のように0.1g単位で数値化されたデジタルクッキングで、誰でも、同じ味を作れるように教えるのがモットーです。他に、東京、シンガポールでも開校。費用は約42万円。5日間に、ベーカリー開業までの研修をギュッとパッケージングしたのが、岡山県の「リエゾンプロジェクト」(運営[おかやま工房])。温度・時間・大きさなどを数値化して、製造工程から、感覚的な職人技をすべて排除。レシピを独自開発で簡素化し、国産小麦をブレンドした1種類だけの小麦粉を使用するので、難しい調合等は不要。現在、東京と大阪にも研修センターを設けています。費用は10万円、卒業生は約500人。独立開業した店舗数は約130店を数えます。インスタント職人の増殖傾向は飲食業界にとどまりません。襖・障子などを扱う「表具業」や「左官業」など、若い人材獲得への苦肉の策としてこの手法を取り入れているところが少なくありません。 「技は教わるのではなく見ておぼえろというのは、結局、自分が苦労して得たものを簡単に教えてなるものかというだけ。それを惜しまなければ、短期習得は可能」という、ある表具師の言葉が印象的です。長年の下積み修業が醸し出す奥深さは認めつつも、インスタント職人は“いま”という時代の要請から生まれたことは確かなようで、双方の真価が問われる勝敗の行方は、数年先まで持ち越しとなりそうです。
※参考: 飲食人大学 http://insyokujin.ac/ |