鉄道会社が手掛ける農水産事業。“副業”と呼ぶには失礼なほどの実績です。
人口減に伴う鉄道利用者の減少が見込まれる中、鉄道各社は事業の多角化の一環として農業関連事業への参入や強化の動きを活発化させています。
早いうちから農業事業に着目し、2010年から参入したのが[JR九州]。九州各地の農業生産法人を統合して「JR九州ファーム」(佐賀)を2014年に設立。ミニトマト、甘夏、ピーマン、ブロッコリーなどを生産し、現在、九州各地8カ所に農場・養鶏場、直営青果店3店舗、スイーツショップ1店を運営するまでに発展しています。2015年の売り上げは約4億円、2019年には15億円を目指します。
JR九州と同時期に参入したのが[JR東海]。2010年にブランド野菜の「のぞみ畑」の販売を開始。常滑と四日市に農場を所有し、トマト、レタス、イチゴ、ズッキーニなどを生産しています。
[JR東日本]は2014年、福島県に農業法人「JRとまとランドいわきファーム」を立ち上げ、今春から8億円を投じた太陽光利用型植物工場でトマトの生産を開始。ジュース、ケチャップなどの加工食品の製造と、隣接する観光農園「ワンダーファーム」では直売所やレストランでの提供を展開しています。また同社は今年、新潟県・農業特区の規制緩和を活用して「JR新潟ファーム」を設立。約2haの水田で酒米「五百万石」を生産し、地元の酒造メーカーに販売しています。
[JR西日本]は2015年から、鳥取県栽培漁業センターと組んで陸上養殖サバの卸販売事業に乗り出しました。地下50mから汲み上げた海水を使うため、“悪い虫”(寄生虫)がつきにくく臭みがない完全養殖という意味から、“鳥取生まれの箱入り娘「お嬢サバ」”と名付けられました。サバ料理専門店「SABAR(サバー)」を展開する[鯖や](大阪)と提携し、昨年から生食のブランドサバ料理を提供して話題となっています。 [小田急電鉄]も今年、初めて農業事業に参入。グループ企業が所有する遊休地にビニールハウス4棟を建設し、高糖度のミニトマトを栽培。 [東京メトロ]が栽培するのは、野菜ブランド「とうきょうサラダ」。東西線の高架下の植物工場(約167平方メートル)で、2015年からスタート。ホテルのレストランなどに販売しています。農水産物の生産から加工、販売までを手掛ける6次産業化を目指す“アグリ(農業=Agriculture)ビジネス”は、今や電鉄会社の経営トレンドといえるほど。沿線の人口と雇用の増加、休耕地や後継者不足の問題解消、百貨店、ホテルなど電鉄グループへの販売による収益増と、波状効果は大きな魅力。もはや、片手間の副業レベルではない、事業の柱の一つとしての本気度が伝わってきます。
※参考:
JR九州ファーム https://www.jrkf.jp/
JR東海 http://jr-central.co.jp/
JRとまとランドいわきファーム http://jrtomato.co.jp/
JR新潟ファーム http://www.jrniigata.co.jp/
JR西日本 https://www.westjr.co.jp/
鯖や http://www.torosaba.com/
小田急電鉄 http://www.odakyu.jp/
東京メトロ http://www.tokyometro.jp/
日経МJ(2016年6月1日付)