顧客のニーズの洗い出しが奏功。よみがえる「固形せっけん」。
液体や泡タイプに押され、一時は、市場自体の消滅さえささやかれていた「固形せっけん」ですが、ここにきて再び見直され、SNSを発信源としてじわじわと復活劇が始まっています。
最近では、お尻用、背中用、二の腕用、足裏用など、女性のニーズにきめ細かく対応した部位別の固形せっけんも登場して、人気に拍車をかけています。
中でも、固形せっけんの代表格であり、発売90年のロングセラー商品でもある「牛乳石鹸」(正確には「カウブランド 赤箱」)が、“洗顔用”として大ブレーク。もともとは体を洗う浴用せっけんですが、ミルク成分(乳脂)がたっぷり配合されているためニキビ肌の改善や乾燥肌、敏感肌にも効果的と、利用者の口コミなどで話題となりました。この、埋もれていた価値の発掘がメーカーを動かし、製造販売元の[牛乳石鹸共進社]では赤箱洗顔ファンを“赤箱女子”と命名し、SNS上に赤箱の魅力を語り合う場を開設。さらに昨秋には、京都で、赤箱の泡立ちや香りを体感してもらおうと、期間限定で「赤箱AWA-YA」を開店するなど、赤箱ファンの拡大に積極的です。
赤箱が“若い女性×SNS”なら、“主婦×試供品”の戦略で10年前の6倍近い販売個数を記録したのが、洗濯用の固形せっけん「ウタマロ石けん」です。洗濯機洗いでは落ちにくいガンコな汚れ用の“部分洗い”せっけんの横綱。1957年に発売されましたが、ライフスタイルの変化に取り残されるかのように売り上げは右肩下がり。販売終了の瀬戸際だったところ、愛用者から存続を求める声が相次ぎ、2000年以降、
“部分洗いといえばウタマロ” という口コミが拡散して徐々に業績が回復。
製造販売元である[東邦]の販売戦略は、店頭やイベント会場での実演と、幼稚園、少年野球チームなど、泥汚れが付くと思われるスポーツ少年少女たちの親へ向けたサンプリング。毎週末に配り続けて10年。サンプル配布数は年間50万個に上ります。
[花王]も、部分洗いのマーケットに再注目し、昨春、ブラシ付き固形せっけん「アタック プロEX石けん」を発売。強力な泥洗浄力に特化した製品です。
浴用せっけんでの洗顔、部分洗いに特化—–利用者の生活の中にこそ、メーカーも見落としがちなヒットの芽が潜んでいるということに、改めて気付かせてくれた事例でした。たまたま、いま、光が当たっていなくても、再び光り輝くのを待っている製品は、まだまだありそうです。
※参考:
牛乳石鹸共進社 https://www.cow-soap.co.jp/
東邦 http://www.toholtd.com/
花王 https://www.kao.com/jp/
日経МJ(2018年11月23日付)