はき古しの美学。“物語”をはくという、「ジーンズ」の新しい波

数十万円もするヴィンテージものがブームになるかと思えば、1本990円のジーンズが話題となったり……時代に合わせて“歴史”をつくってきたジーンズ市場も、近年、頭打ちが続いており、ひところは一世を風靡したジーンズ専門店や専業メーカーなども苦境に立たされています。

しかし、そんな“ジーンズ冬の時代”にもめげず、新たな可能性をはらんだムーヴメントが起こっています。
世界最高レベルのデニム生地生産地である、広島県東部の備後(びんご)地方、尾道。その町の魅力をジーンズに込めて、日本はもとより世界に発信したいと、2013年に「尾道デニムプロジェクト」(運営「ディスカバーリンクせとうち」)が発足しました。プロジェクトの第一弾として始まったのが、地元、尾道で働いている様々な職業の人たち270人に、まっさらなデニムを1年間はき込んでもらい、一点ものの“リアルUSEDデニム”を作ろうという壮大な企画です。最大のポイントは、人為的な加工を一切施さないという点。

まず、参加者各人にジーンズを2本ずつ渡し(無料)、仕事中、私生活問わず着用してもらいます。その職種は、市長を筆頭に、住職、漁師、大工、農家、左官、保育士、カフェ店員、ラーメン屋、など多彩。
次に、1週間に一度、洗濯するために(専門の洗い職人が担当)全員から回収します。最初に2本配るのは、洗濯時のスペア用です。

この、“はく→回収→洗う→はく”を週ごとに1年間繰り返すことで、後付けの加工では作り出せない自然で本物のユーストジーンズが出来上がります。その数、540本。1本1本、チェックした上で値決めされ、専門のショップで販売されます。値札には、はいていた人の職業も明記。例えば、漁師が1年間はいたジーンズには、4万2000円の値が付けられました。太陽光や潮風をたっぷり浴び、ロープが擦れて生まれた色褪せ、長靴の痕によるひざ下の白い色落ち……最初に配った新品の定価が2万2000円ですから、約2倍の価値が付いたことになります。

そこには、1本たりとも同じものは存在しない仕事人たちの“物語”が刻まれ、シワやキズまでが味となって語りはじめます。ただの古着ではない、究極の一点ものとしての魅力が広まり、徐々に海外からの注目度も高まっています。

“クール・ジャパン”はアニメだけではありません。世界へ向け、新しい価値を付加することでまだまだ可能性を広げる、ジャパンオリジナルジーンズの今後にも注目です。

※参考:

尾道デニムプロジェクト         http://www.onomichidenim.com/
日経MJ(2017年4月5日付)
日経産業新聞(2017年4月17日付)