トラックからの切り替えを追い風に、帰ってきた「鉄道貨物輸送」。

慢性的な赤字が続いていた[日本貨物鉄道(JR貨物)]が、2017年3月期決算で、1987年の国鉄分割民営化以来初めて黒字を達成しました。発足当時から、将来的には無用の存在になると目されていたことを思うと、まさに苦節30年、逆境を乗り越えての快挙といえそうです。

背景には、貨物輸送の9割以上を担っていたトラック輸送に噴出した、ドライバー不足という構造問題があります。諸外国に比べ、一つの輸送手段に偏重し過ぎた結果、無理が生じ、一気に限界を超えてしまったのです。メーカーや流通大手は、トラック依存から脱却する手段として鉄道輸送に切り替える“モーダルシフト”へと舵を取り始めました。その機能の担い手として再び脚光を浴びる存在が「JR貨物」でした。

道路から鉄路へ、モーダルシフトの大きなうねりは、今年に入ってからさらに加速しています。
[トヨタ自動車]は、部品を名古屋から盛岡まで輸送する貨物列車「TOYOTA LONG PASS EXPRESS」を今年から一日2往復に増便。[イオン]もメーカー各社と協力し、東京-大阪間の商品輸送に専用の貨物列車を使用。[福山通運]の「福山レールエクスプレス号」は一日3往復、東京から福岡までの主要都市間を運行しています。
しかし最も大きなエポックメーキングな出来事といえば、今年1月、ビール業界1位のアサヒと2位のキリンが、関西から北陸へJR貨物での共同配送を開始したことです。これまでは各々長距離トラックで配送していましたが、いまは平日の毎日、「スーパードライ」と「一番搾り」が仲良くコンテナ40個分に相乗りして運ばれています。これにより、年1万台相当のトラック輸送分がまかなえることに。このように、ライバル企業同士で、競うべきところでは競い合いながら、協力するところは一緒にやるという考え方は“協争”と呼ばれ、業界が抱える様々な課題を打開し、事業を維持するための効率化戦略として最近、注目されています。

JR貨物では、貨物駅ホームの延伸・拡張、コンテナの大型化、GPSとICタグによる荷物管理など、営業力強化と効率化を旗印に社を挙げての大胆な“経営管理改革”を断行する一方、殿様商売といわれた古い体質からお客様ファーストへの転換という社員の“意識改革”を徹底。

社会環境の変化による輸送需要の拡大を追い風に、貨物輸送の巨大市場に挑むJR貨物は、2016年に上場を果たした[JR九州]に続くことを次なる経営目標に据えています。

※参考:

日本貨物鉄道(JR貨物)      http://www.jrfreight.co.jp/
トヨタ自動車           http://toyota.jp/
イオン              http://www.aeon.co.jp/
福山通運             http://corp.fukutsu.co.jp/
アサヒビール           http://www.asahibeer.co.jp/
キリンビール           http://www.kirin.co.jp/
日経産業新聞(2017年3月27日付)
日刊工業新聞(2017年4月14日付)