“価格”は一定に非ず。変動型料金「ダイナミック・プライシング」、浸透中。

ネットを通じてモノの価格を容易に比較できるようになったことで、大量供給・大量消費時代の申し子である“一物一価”はもろくも崩れ去り、価格の多様化を招いています。供給側にとって、ますます適正な値付けが難しくなっているいま、救いの手ともいうべき一つの画期的な手法がもたらされました。それは、需要と供給に基づいて価格をリアルタイムで上下させる「ダイナミック・プライシング」(以下、DP)という価格決定の方法です。
例えば、ホテルの場合、これまでは担当者が毎日、ネットなどで競合するホテルの料金をチェックして宿泊料金を決めていました。この、大変な割りには曖昧な、人の手による“値付け”作業を、AI(人工知能)に任せようというのがDPです。膨大なビッグデータを数値化してAIが分析。自動的に、しかも瞬時に、顧客満足と企業利益が最大化する、双方にとっての最適な価格をはじき出します。

DPを取り入れているのはホテルや航空会社だけではありません。とりわけ強い関心を示しているのが、スポーツやエンターテインメント業界です。人気薄の時には値引きして集客を増やし、人気の場合は高値で販売する——米国のプロスポーツ界ではすでに当たり前のDPですが、その波がようやく日本でも本格化しそうです。

2016年に[ヤフー]と[福岡ソフトバンクホークス]は、ホームゲームで開催される試合のチケットの一部にDPを導入。曜日、天候、開始時刻、ホークスの順位、相手チームの調子、登板予定の投手、当日のチケットの売れ行き、過去にその席が5万席の中で何番目に購入されたか、などといったビッグデータを基に100円単位で上下させながら当日のチケットの値付けが行われました。
2017年には[東北楽天ゴールデンイーグルス]が、18年春にはJリーグの[セレッソ大阪]が、ホーム主催ゲームでの8試合・14席限定ながらJリーグで初めてDPを導入。同じくJリーグの[横浜F・マリノス]は、今年7月から、ホームゲームでの一部観客席にDPを導入しました。このサービスを提供しているのが、6月に設立された[ダイナミックプラス]という、[三井物産][ヤフー][ぴあ]の3社共同で立ち上げたDP事業専門の合弁会社です。

ほかにも、[横浜DeNAベイスターズ]が今年度から導入を開始。[ローソン]も次世代店舗でのDP導入を検討。国交省とタクシーの[日本交通グループ]も今秋から、時間帯によって迎車料金を変動するDPの実証実験を始めています。

元来、モノやサービスにどれだけの価値を感じるかは、買い手のその時々の情況によって異なるもの。時代とともに、“定価”は見る見る力を失い、価格は“変わって当たり前”になろうとしています。
DPによる新たなビジネスモデルが増殖することで、“AI値付け”された“時価”が、さらに力を誇示することになりそうです。

参考:

ダイナミックプラス     http://www.dynamic-plus.com/
三井物産          https://www.mitsui.com/
ヤフー           https://about.yahoo.co.jp/
ぴあ            http://corporate.pia.jp/
ローソン          http://www.lawson.co.jp/
国土交通省         https://www.mlit.go.jp/
日本交通グループ      http://www.nihon-kotsu.co.jp/