いかに乗り越えるか。限界を迎えた「宅配」の危機。
このままではサービス維持が難しい!という、悲鳴にも似た現場の声が日増しに大きくなり、“宅配危機”が深刻さを増しています。
その要因の一つが、ネット通販の急速な普及で、2010年に約7.8兆円だったEC(電子商取引)市場が2015年には約13.8兆円にまで拡大(経産省)。それに比例して取り扱い個数も激増。15年度には37億個を突破、この5年間で5億個近くも増え(国交省)、いずれ60億個まで増え続けるだろうとみられています。その背景には、宅配会社と[アマゾン]や[楽天]などに代表されるネット通販業者との運賃契約が横たわります。大口顧客の運賃が大幅な値引きを前提に設定されているため、取り扱い数が増えても宅配会社側に利益が上がりにくい構造となっているのです。2013年にアマゾンとの契約を打ち切った[佐川急便]に続き、最大手の[ヤマト運輸]は今年10月から小口の一般顧客対象に27年ぶりの値上げを打ち出しました。しかしヤマト側の本丸は、あくまでも大口顧客との運賃見直しにあることは言うまでもありません。
宅配危機、もう一つの要因として、トラックの運転手不足が追い打ちをかけます。不規則で長時間の勤務が常態化しているため、特に若い人材が集まりません。さらに、日本が誇る宅配ビジネスのほころびを端的に表し、宅配業者の負担を深刻化させているのが、全体の2割で発生する再配達問題です。宅配全体の走行距離の4分の1が再配達に充てられ、年間9万人相当の労働力が費やされていることになるといわれています。
一方、業界の枠を超えた新しい試みも広がり始めています。ヤマトは、他の宅配業者の荷物を共同で一括配送するサービスを開始(藤沢市)。また、ヤマトとDeNAとのコラボで誕生した、AIによる自動運転技術活用の「ロボネコヤマト」の実証実験。楽天は、ドローン配送システムの2年後の実現を目指して各地の自治体と実証実験を重ねます。
即日配送や送料無料など、日本流“おもてなし精神”に裏打ちされたサービス競争は、いつしか現場の処理能力を超え、そのシワ寄せが配送スタッフの負担増を招き、業界全体の疲弊感として表出したのが、いまの状況。
日本の物流現場の作業員は世界一勤勉でスキルレベルも高いといわれてきました。しかし、「労働生産性」でみると、主要先進7カ国中、最下位が定位置です。ハードワークが報われない理由は明白です。それは、いかに、やらなくてもいい無駄な作業を強いられているかということに他なりません。
今回、あぶり出された制度疲労ともいうべき「宅配」の歪みが、日本の物流業界全体に及ばないことを願うばかりです。
※参考:
経済産業省 http://www.meti.go.jp/
国土交通省 https://www.mlit.go.jp/
ヤマト運輸 http://www.kuronekoyamato.co.jp/
佐川急便 http://www.sagawa-exp.co.jp/
DeNA http://dena.com/
楽天 https://corp.rakuten.co.jp/
日経MJ(2017年3月10日付/同3月24日付/同4月21日付/同4月26日付)
日経産業新聞(2017年5月11日付/同5月12日付/同5月15日付/同5月16日付)