まず、地元に愛されることが大切です。定着した「命名権ビジネス」の“いま”。

 スポーツ施設や公共の建物などに企業名やブランド名を付ける権利、「命名権=ネーミングライツ」が本格的にビジネスとして確立され始めたのは90年代の後半。日本では2003年、「東京スタジアム」(東京・調布)が「味の素スタジアム」となったのが初の命名権導入となりました。5年契約で12億円(契約時)。当時、この効果を広告費に換算すると、年間66億円に相当するといわれました。

 よく知られている「命名権」の導入事例として、野球場があります。例えば、千葉を本拠地にする「ロッテマリーンズ」の場合。地元に本社を置くテレビ通販大手の[QVCジャパン]が2010年、千葉市から命名権を買い取り(10年契約27億5,000万円)、「千葉マリンスタジアム」から「QVCマリンフィールド」へと改称。地元への貢献度、従業員の士気高揚など、命名権効果が顕著に表れた例です。

 一方で、契約した企業の事情によって短期間でめまぐるしく施設名が変わり、混乱を招くという事例もあります。

 プロ野球「東北楽天ゴールデンイーグルス」の本拠地「県営宮城球場」は、2005年に人材派遣の[フルキャスト]と契約を結び「フルキャストスタジアム宮城」に。しかし2007年に発覚した不祥事のため解約。新たに地元の[日本製紙]が2008年から契約し「日本製紙クリネックススタジアム宮城」に。しかし今度は古紙配合率偽装問題のため企業名を外して「クリネックススタジアム宮城」に。2013年に同社は経営不振で契約更新せず、結局2014年からは、球団の親会社である[楽天]が権利を取得して「楽天koboスタジアム宮城」に落ち着きました。20~30年という長期契約が一般的なアメリカと違い、3~5年と短い日本の契約スパン。名付け親企業の業績如何では翻弄されてしまうこともあるという事例でした。

 特殊な事例としては、昔からの名称を守るために命名権を買うという場合も。鎌倉市が「由比ヶ浜」など3カ所の海岸名の命名権を募ったところ、地元の[豊島屋](「鳩サブレー」で有名)が10年契約1億2,000万円で権利を取得。その理由が、鎌倉で生まれ育った社長が、愛着ある浜辺に、自他問わず企業や商品名といった新たな名を付けたくなかったから、というものでした。

 日本に定着して10年あまり。現在では、スポーツ施設や公共文化施設以外にも、バス・路面電車の路線名や停留所、ダム、屋外大型ビジョン、歩道橋、公衆便所、公園、環境林など、命名権の対象が広がっています。また最近の傾向として、スタジアムのゲートの名前や競馬のレース名、野球場の年間シート名、公園のベンチ名というように、名付ける対象の細分化がトレンドとなっています。

※参考:
朝日新聞(2014年12月13日付)