アート感覚も、癒しも満たされて。いま、「大人のぬり絵」が新鮮。

昨年あたりから、20~40代の働く女性や子育て中の女性たちを中心に世界的ブームを巻き起こしているのが、「大人のぬり絵」です。

 子ども用のぬり絵と違うところは、細密画のような緻密な絵柄、インテリアにもなるようなデザイン性の高さとアーティスティックな美しい仕上がり。配色のバランスや色付けのタッチの加減を楽しみながら完成させていくのが特徴です。塗っている時は無心になれる“ストレス解消効果”や手作りの作業を通して心が癒される“ヒーリング効果”。さらに、正解がなく(完成見本がない)、好きな色で好きなように塗る作業がリラクゼーションにつながる“リラックス効果”などが得られるといわれています。

 この予期せぬブームで思わぬ特需に沸いているのが「色鉛筆」メーカーです。今春には、ドイツの大手メーカー[ファーバーカステル社]が色鉛筆の在庫不足に陥るほどでした。「大人のぬり絵」ブームの勢いが、世界的メーカーを慌てさせたのです。同社ばかりか、世界の多くのメーカーが色鉛筆の品薄を招き、その“うれしい悲鳴”の余波は日本にも及びました。

 [三菱鉛筆]の「No.888 36色セット」(税抜き3,000円)は、昨年末に発売されるや5カ月で当初目標の4倍の受注があり、一時、生産が追いつかない状況となりました。併せて、72色、100色セットの売り上げも伸びました。

 他メーカーもこぞって活発な動きを見せています。
 [パイロット]からは、ボールペンで開発した“こすると消える”技術を色鉛筆にも応用。鉛筆後部のラバーでこすると色が消える「フリクションいろえんぴつ」(全12色/1本100円)を発売。[サクラ]は、オランダの有名メーカー[ロイヤルターレンス社]の「ヴァンゴッホ色鉛筆60色セット」(税抜き12,000円)を発売。[トンボ]は、自然界の色を再現した「色辞典 オリジナル全90色/全3集」(1集/税抜き3,000円)を発売。カワセミ、たんぽぽ、桜貝など、魅力的な色名が10色ごと、トーン別に(1集3トーン)編集されたユニークな色鉛筆セットです。

 塗るのが下手でも上手く見えてしまうという、不思議な魅力に大人がハマるぬり絵の世界。ブーム拡大に一役買っているのは、SNSの存在です。でき上がった作品をアップして、世界中のぬり絵仲間との交流を楽しむ輪が広がっています。男性の“ヌリエスト”も増えてきたいま、ぬり絵本が書店から飛び出てホームセンターや画材店へと販路を拡大し、色鉛筆も書店のぬり絵本と隣り合わせの販売戦略を—-なにやら、ほのぼのとした“販促交流”となりそうです。

参考:

三菱鉛筆           http://www.mpuni.co.jp/
パイロットコーポレーション  http://www.pilot.co.jp/
サクラクレパス        http://www.craypas.com/
トンボ鉛筆          http://www.tombow.com/

日経МJ(2015年12月9日付)
日経産業新聞(2016年5月9日付)