温故知新のサービス。現代に甦った「置き売り」商法。

 江戸時代に広がったとされる“富山の薬売り”。行商人が箱に入った薬を無償で顧客の家に預け、年2回程度訪問して利用した分だけの代金を徴収。その際、薬の補充や交換を行うという「置き売り」商法です。そんな“売れた分だけビジネス”が、21世紀のいま、オフィスを舞台に再び脚光を浴びています。

 パイオニア的存在が、2002年から本格展開している[江崎グリコ]の「オフィスグリコ」。契約した会社に、専用の“リフレッシュボックス”を設置。中には10種類程度、全部で24個の商品が入っており、全て1個100円。お金は代金箱に入れます。週1回、サービススタッフが訪問して商品の補充、代金回収を行います。導入会社側には一切の費用、負担はかかりません。現在、首都圏、近畿、愛知、福岡の4エリアで、11万6,000カ所に設置され、2013年度の売上高は約45億円に達しました。

 [ファミリーマート]の商品を職場で購入できるサービスが「オフィスファミマ」(2013年開始)。お菓子やカップ麺など、約25種類(1個100~200円台)の商品を常備。

 惣菜やご飯、スープといった“食事”を専用の冷蔵庫やボックスに入れた“プチ社食サービス”を始めたのが「オフィスおかん」(2014年開始)。ハンバーグやサバの味噌煮、切り干し大根などが、1個100~200円。導入した企業規模や従業員数に応じてサービス利用料(月額3万円~)を徴収するシステムが、販売状況にかかわらず毎月安定した収入が見込めるという点でビジネスモデルとして注目されています。導入する企業にとっては、新たに社員食堂を設けた場合の投資費用を天秤にかけても、圧倒的な低コストで従業員のための福利厚生が実現できるというメリットがあります。

 新鮮な産直野菜やフルーツがいつでもオフィスで食べられると好評なのが、[KOMPEITO(コンペイトウ)]というベンチャー企業が手がける「オフィスでヤサイ」(2014年開始)。専用冷蔵庫からハンディサイズのパック野菜を取り出して、100~300円を料金箱へ。専任スタッフが週2回、商品の補充と代金の回収に訪問。導入コスト、メンテナンスは無料です。

 社員を対象とした、いわゆる“B to E”(Business to Employee=従業員向けビジネス)市場の最大の強みは、集客が不要なことです。だまっていても社員という顧客が毎日出社して“来店”してくれ、あとは彼らの要望を見極めて、それを満たす商品やサービスを提供すればビジネスとして成り立ちます。
 現代版行商ビジネス——未開拓のマーケットが、日本中のビルの中に眠っています。

※参考:
江崎グリコ     http://www.ezaki-glico.net/
ファミリーマート  http://www.family.co.jp/
オフィスおかん   http://office.okan.jp/
KOMPEITO(オフィスでヤサイ) http://www.officedeyasai.com/
朝日新聞(2014年11月7日付)