今夜はどこで寝る? 変わる、訪日客の宿泊のカタチ。

昨春あたりから、観光業界で奇妙な現象が起きています。訪日外国人の数と宿泊施設(ホテル・旅館)利用者数との統計上の数値にズレが生じてきたのです。2016年の訪日外国人は約2400万人で、前年比22%もの伸びを見せているにもかかわらず、宿泊者数は伸びずに、その半分以下の8.4%増に留まっているのです(観光庁)。これまで両数値の曲線は、ほぼ比例して描かれてきました。
最大の要因は、旅慣れた訪日リピーターの増加にありそうです。宿泊費を削って、その分ちょっと豪華な食事や、よりディープな日本体験に使いたいというニーズが高まり、従来の宿泊施設を利用しない外国人観光客が相当数存在するようになったということです。

では、彼らは、どこで寝泊まりしているのでしょう?
その一つが「夜行バス」での車中泊です。例えば、東京→大阪間で4000円程度。夜、乗車して、朝、目が覚めると目的地。飛行機や新幹線より時間はかかりますが、はるかに割安、かつ宿泊代が浮く計算に。国交省も「高速バス情報プラットフォーム(Japan Bus Gateway)」を開設して、情報サービスを始めました。

何千人単位という乗客をのみ込む巨大クルーズ船での訪日観光客が増えています。昨年は、前年比78.5%増で過去最高を記録。当然、彼らは街なかのホテルには泊まりません。豪華な船室が宿となるからです。
ほかにも、数人で「キャンピングカー」をレンタルして日本を楽しむ訪日客が増加。寝場所を探す手間が省けます。
また、“こんなホテル、見たことない”と、かえって訪日客に喜ばれているのが「ラブホテル」。個性的な内装は、泊まれるテーマパークとしても人気で、宿泊所不足の解消に貢献しているようです。
さらに、24時間眠らない関西国際空港。その仮眠スペースでは、ホテル代わりに一夜を明かす訪日客で賑わっています。
終日営業のサウナや健康ランドといった温浴施設にも訪日客が目に付くようになってきたほか、小規模なゲストハウスやカプセルホテル、ウィークリーマンションなども選択肢に加わり、宿泊形態の多様化に拍車がかかります。

国の統計に上がってこない訪日外国人の、たくましくも柔軟な“寝場所”。今後は、その宿泊ニーズに応える受け皿づくりが、横ばい推移を描くインバウンド需要回復のポイントとなりそうです。

※参考:

日本政府観光局(JNTO)     http://www.jnto.go.jp/
国土交通省観光庁          http://www.mlit.go.jp/
日本経済新聞(2016年10月22日付)
日経MJ(2017年1月25日付/同2月1日付)
日経産業新聞(2017年3月8日付)