もう「小京都」とは呼ばないで。京都からの“独立”を図る観光地
日本全国に星の数ほどある「〇〇銀座」のように、あるモデルとなる地域の名を冠した代表的なものに「小京都」があります。歴史や雅な文化を感じさせ、昔ながらの町並みや風情が京都に似ているとされる地域を称して、こう呼ばれています。
現在、日本各地には45の小京都と名乗る市町が点在し(2018年4月時点)、それらを束ねるために、1985年に「全国京都会議」という団体が設立されました。加盟するには、1.京都に似た自然景観、たたずまいがある2.京都と歴史的なつながりがある3.伝統的な産業・芸能がある、の3条件のうち、どれか1つに合致していればよく、年1回催される総会で承認されれば加盟が許されます。しかし、加盟しなければ小京都と名乗れないというわけではなく、一種の“お墨付き”的性格のもの。年会費は5万円。活動としては、小京都連合でのPRや広域観光キャンペーンの展開、ホームページなどでの情報発信など。
地域のイメージアップと観光客誘致を主な目的に、ピーク時(1999年)には、設立時の2倍超の56市町が加盟。拡大する旅行ブームに乗って、入会する市町が増え続けていったのです。ところが、2000年を境に、退会する市町が続出。これまで、全部で63市町が入会しましたが、現在はそのうち18市町が退会しています。
“加賀の小京都”と称された金沢市の場合は、「ウチはあくまで城下町で、公家文化の京都とは違う」との市民の声も多く、一旦は入会したものの2008年に退会。
松本市は、「アルプスの城下町とは呼ばれても、小京都と呼ぶのはそぐわない」と、2004年に退会。
“陸中の小京都”と称された盛岡市は、“役割は果たした”と2010年に退会。今は、町家の風情を生かした独自のPRに方向転換しています。
大野市(福井県)は、“越前の小京都”と称されていましたが、“メリットがない、誘客につながらなかった”と2016年に退会。
そのほかにも、岐阜県高山市や滋賀県大津市、広島県三次市、北海道松前市、山形県酒田市など、18の市町が小京都から“独立”しています。
“本家”京都市の観光客数が年々増え続ける一方で、観光客が思うように伸びない小京都の観光地。一定の効果は得られたものの、ひところに比べ“小京都”が持つ威力が失われ、観光客には響かなくなったのでしょうか。
「〇〇の小京都」と呼ばれる各地の観光地では、自分たちの町の歴史的アイデンティティを見直し、京都ブランドに依存することなく地域独自の観光資源を活かしたブランディングが主流となってきています。“京都らしさ”からの巣立ちともいえる現象が、日本各地で静かに広がりつつあるようです。
※参考:
全国京都会議 http://shokyoto.jp/
朝日新聞(2018年7月21日付)