ルーを超えた「レトルトカレー」。存在価値を高めて、ますます市場拡大
昨年、カレー市場に一つの“事件”が発生しました。「レトルトカレー」の売上高が、ついに初めて「カレールー」を追い越してしまったのです。その原因として、共働き世帯の増加による調理の簡便化と時短ニーズの高まり、単身世帯や高齢者の増加による孤食化の進行、東日本大震災など災害時の備蓄食料としての需要増、などが挙げられてはいます。しかし、どうも、それだけではなさそうです。
近ごろ、レトルトカレーが、単身世帯だけでなく子どものいるファミリーの食卓にも頻繁に登場するようになったこと。また、仕事を持っている女性より、むしろ専業主婦のランチニーズで需要が高まっていることなどから、もはやレトルトカレーは、“単身”や“働く女性”だけの御用達ではなく、“家族”や、これまで手を出さなかった“主婦”という新たなユーザーを獲得したといえます。
あえて家族それぞれが、好みの味や辛さのレトルトカレーを食べる……そんな“家庭内個食”ともいえる食卓の光景が、レトルトカレー市場拡大要因の象徴的シーンなのかもしれません。もちろんその背景には、味・製法など商品自体の進化があってのこと。本格的な味を手軽に楽しめるという、レトルトカレーのメリットの浸透が、いっそう需要を押し上げています。
“少しだけ食べたい”“いろいろ食べたい”というニーズに応えて発売されたのは[エスビー食品]の「食べ方チョイス」シリーズ(税別130円)。1袋が通常の半分以下(65~75g)に抑えられており、バターチキンやキーマなど6種類の味を組み合わせて楽しめます。
レトルトカレーの中でも抜群の人気を誇るのが[ハウス食品]の「プロクオリティ」シリーズ(4袋入/税別478円)。ほぐれるまで煮込んだ牛肉やタマネギ、トマトなどの旨みと甘みが凝縮された、レストラン品質の味わいが売り。
レトルトカレーの元祖、「ボンカレー」発売50周年を迎えた[大塚食品]は、「マイサイズ いいね!プラス」シリーズ(税別170~190円)を16年から発売。「糖質が気になる方の欧風カレー」「たんぱく質を摂りたい方のキーマカレー」など、全国の調剤薬局や病院内の売店で販売しています。
全国各地の“ご当地カレー”も人気で、町おこしや地域の名産品を広めるための恰好のツールとして自治体も商品化に積極的。また、価格が500円を超す“高級レトルトカレー”も、シニア層や主婦を中心に好調な売れ行きです。
1968年、レトルト食品の草分けとして登場したレトルトカレーも、“個食”と“時短”といった時代の波に乗り、今やレトルト食品の王様に。その変遷には、日本人の“食”や“家族のカタチ”の移り変わりが内包されていて興味深いものがあります。
※参考:
エスビー食品 https://www.sbfoods.co.jp/
ハウス食品 http://housefoods.jp/
大塚食品 http://www.otsukafoods.co.jp/
朝日新聞(2018年5月22日付)
日経МJ(2018年6月25日付)