米国が、「和食ブランド」研鑚の地として選ばれる理由。
2年前に「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録が決定。海外攻略を計画する日本の食業界にとっては力強い追い風となったにちがいありません。農林水産省も世界の料理界へ向け、日本食材の活用推進(made FROM Japan)、日本の食文化の海外展開推進(made BY Japan)、日本の農林水産物や食品の輸出促進(made IN Japan)の、いわゆる“FBI戦略”を掲げ、官民挙げて日本食拡大の動きを加速させています。その成果か、2006年に約2万4,000店だった海外の和食レストランも、2013年には約5万5,000店と倍増。
日本の外食企業や食品メーカーが進出先として最も重視する国は、意外なことに、地理的に近く10億人もの巨大マーケットを抱える中国でも、6億人規模のASEAN(東南アジア諸国連合)エリアでもありません。それは、多種多様な民族が複雑に絡み合って新たな食文化を生み出している国家、米国でした。人口約3億人の米国市場での成功こそが、世界70億人市場へ挑む足掛かりと捉えます。米国で揉まれ、ブランド力を磨いて、はじめて世界の舞台に通用するパスポートを手に入れることができると考えます。日本の食業界にとって米国は、意味のある“特別な場所”なのです。
2002年から緑茶飲料の米国販売を始めた[伊藤園]も、米国を“踏み台”に世界市場を目指すブランドの一つです。肥満が社会問題化している米国では、大都市を中心に年々ヘルシーな日本茶への興味が高まっています。特に、無糖の「Oi Ocha(おーいお茶)」が人気で、シリコンバレーのIT企業(グーグルやエバーノート、フェイスブックなど)では、社員の定番ドリンクになっているほど。
2012年、ニューヨーカーに「TEISHOKU(定食)」文化の定着を目指してマンハッタンに乗り込んだのは[大戸屋]。ジャズが流れる70席ほどの和風モダンな店内。ランチの定食は、基本的に内容も味付けも日本のメニューと同じ。例えば、「熟成豚ロースのおろしとんかつ」に、ご飯・味噌汁・おしんこ・茶碗蒸しがセットで20ドル前後。
2009年に和菓子で米国市場に進出した[井村屋]。昨年、米国人にも受け入れられるようにと開発した「ココナツもちクリーム」(6個で5ドル)がスーパーなどで好評。現地法人[井村屋USA]の今期売上高は、前年比3割増の見通しです。
古くは、1957年から米国で「ソイソース」を浸透させた先駆者[キッコーマン]。今や、世界100カ国以上でビジネスを展開するまでに育ち、大きく羽ばたきました。
きっと今も米国のどこかで、“世界ブランド”への階段を駆け上がろうと、数々の日本食企業が、日夜、奮闘しているはずです。
※参考:
農林水産省 http://www.maff.go.jp/
伊藤園 http://www.itoen.co.jp/
大戸屋 http://www.ootoya.com/
井村屋 http://www.imuraya.co.jp/
日経МJ(2015年1月23日付)