あえて「手書き」が新しい。万年筆の文字が、インスタ映えする時代です。

デジタル化の波にあらがうかのように、というか、デジタル全盛のいまだからこそ、あえて「手書き」の良さ、味わい、おもしろさに目覚め、楽しむ人が増えています。特に、若い女性の間で注目され、“手書き女子”が増殖。インスタグラムなどのSNSで“♯手書きツイート”といったハッシュタグが流行し、万年筆のカラフルなインクで書いたメッセージを撮影して投稿するのがひそかなブームに。

実は、文具業界全体では縮小の一途をたどっているなか、なぜか筆記具の売り上げは急増しています。なかでも、国内の万年筆市場はここ数年、需要増が続き、右肩上がりの傾向。もちろん、けん引役は手書き女子たちです。かつては、中高年男性のステータス的高級文具のイメージが強かった万年筆も、最近は1000円~3000円台のコスパに優れた製品が各社から登場。
[パイロット]の1000円万年筆「kakuno(カクノ)」は、日本初の本格的子ども向け万年筆として2013年に登場するや、驚異的な数を売り上げ、これまでに200万本以上のヒット商品となりました。低価格なのに本格的な書き味で大人のユーザーもキャッチ。普段使いとして一人で数本買い求める人も少なくありません。

万年筆と並走するように、インクもこの10年で大きく変わりました。特に、カラーバリエーションの充実が、万年筆ブームに大きく貢献しています。
[セーラー]は昨春、全100色の「万年筆用ボトルインク インク工房 染料20ml」を発売(各税別1200円)。また、[プラチナ]は、複数の色を混ぜ合わせて自分オリジナルのインクが作れる「ミキサブルインク」を展開しています。
ほかに、“竹炭”“朝顔”といった日本的な色をそろえた[パイロット]の「色彩雫(いろしずく)」(全24色/各税別1500円)や、“時雨(しぐれ)”“土用”など日本の四季をイメージしたインク名がついた[セーラー]の「四季織(しきおり)」(全16色/各税別1000円)など。

文具店も、この流れを捉え、さまざまな仕掛け作りに力を入れています。
東京銀座の文具専門店[伊東屋]では昨年9月、1週間にわたって「INK.Ink.ink~インク沼へようこそ~」と題した万年筆用インクの試し書きイベントが催され、予想を上回る来場者で大盛況でした。
また、創業137年を迎えた神戸の老舗文具店[ナガサワ文具センター]では、[セーラー]のインクブレンダー(石丸氏)によるオリジナルインク作りの体験イベントを定期的に開催しています。

それにしても、アナログの象徴である万年筆が、デジタルの象徴であるSNSで“映える”という新たな価値を身に付けたことは、なんとも興味深いことです。

※参考:

パイロットコーポレーション     http://www.pilot.co.jp/
セーラー万年筆           http://www.sailor.co.jp/
プラチナ万年筆           http://www.platinum-pen.co.jp/
伊東屋               https://www.ito-ya.co.jp/
ナガサワ文具センター        https://kobe-nagasawa.co.jp/
日経МJ(2018年6月25日付/同11月2日付)