高品質で輸出拡大、高価格で国内需要縮小。「和牛」が抱える“悩み”とは

キメ細かい霜降りの“サシ”から溶け出すバターのようなコク、柔らかくふんわりとした食感、甘みのある香り……“肉のキャビア”とも称され、質、価格とも世界で最高の牛肉と評価されている「和牛」。
2000年に口蹄疫(2010年にも発生)、2001年にBSE(牛海綿状脳症)が発生して以降、各国は日本からの牛肉輸入を禁止。その間に、豪州や米国では和牛の血を引いた「WAGYU」が生産され、“本家”和牛の半額程度ということもあって、世界の高級牛肉市場を席捲してしまいました。
現在、BSEはすでに過去の病気となり、徐々に市場も回復。相次いで輸入が解禁されていますが、いまだ未解禁の中国と韓国は協議中の段階です。(2017年7月時点)

日本から海外への牛肉輸出量は、ここ数年で2ケタ増が続いており、2017年には前年比4割増と過去最高を記録しました(財務省)。輸出国の筆頭格は香港、次いでカンボジア、米国、シンガポール、EUと続きます。政府は、中央畜産会と連携して、“和牛マーク”を制定し(2007年)、オールジャパンで輸出促進を後押ししています。

一方、好調な輸出に対し、国内の畜産農家の弱体化が大きな懸案事項として横たわります。高齢化や後継者不足などによって繁殖ノウハウを持つ農家の数が10年前と比べ、4割も減少。子牛が慢性的に不足し、価格も過去最高の値を付けるという事態に。この影響は、当然、国内の価格にも波及し、平均卸値で5年前に比べて4割ほど高騰。ますます庶民の手に届きにくくなり、国内市場の縮小を招いてしまいました。高品質を武器に海外でもてはやされる一方で、足元の国内では高値のために消費が低迷するという皮肉。
食肉各社は、国内需要の減少を補うべく、攻めの輸出拡大策を急ぎます。

[伊藤ハム]は、輸出相手国が認定する食肉処理施設を増やし、輸出量を2019年に17年比の1.5倍に伸ばす計画。卸大手の[スターゼン]は、シンガポールの食肉加工会社と共同で販路を開拓、輸出を20年に17年実績の2倍にする計画。[日本ハム]は、米国など11の国・地域に拠点を設け、売り込み強化を図ります。

欧米で和牛といえば「WAGYU」のことを指すほど一般的に普及しており、強力なライバルとして和牛の前に立ちはだかります。そこそこの肉質で価格が半分ほどのWAGYU市場に攻め入るのは、容易ではなさそうです。

※参考:

農林水産省           http://www.maff.go.jp/
財務省             http://www.mof.go.jp/
公益社団法人 中央畜産会    http://jlia.lin.gr.jp/
JA全農ミートフーズ      http://www.jazmf.co.jp/
伊藤ハム            http://www.itoham.co.jp/
スターゼン           https://www.starzen.co.jp/
日本ハム            https://www.nipponham.co.jp/
日経産業新聞(2017年9月21日付/2018年1月19日付)
日本経済新聞(2017年7月29日付/2018年2月10日付)